【長編少女漫画】1.ANIMAL X 杉本 亜未

まだ早いかなと思ったのですが、この連休に読んで感想書きたい意欲がムクムクと湧き出たのでたまらず……


ANIMALX 1

ANIMALX 1





革新が起きた作品です。

※以下ネタバレと腐感想のためご注意を。

受けの両性化、妊娠出産、輪姦、攻め以外との描写などなど地雷のある方には厳しいかもです。

それ以外の方、いや、ある程度目を細めて読める方なら是非とも両手で手招きします。
おいでおいで(。・ω・)ノ

それくらい読む価値のある作品だと思います。

本作は描かれたのが私が産まれた頃とけっこう前の作品なのですが、今日まで読めていなかった事が悔しいくらいです。

まだまだ知らない所にこんな名作があったのかと感動しました。

かるーく冒頭のストーリーに触れます。
※ネタバレ注意

主人公の裕司は情けない性格ながらもメディカルセンターの研究員として働いており婚約者もいます。

そんな時、彼の働く施設に湊と名乗る連続殺人犯の少年が脱走して偶然現れ、自分の子供を産むように迫ってきます。

湊は恐竜の末裔であるダイナソーロイドで、裕司は種族の子供を産める数少ない「雌」だと言うのです。

湊によって外に連れ出された裕司は、自分は男である旨を訴えますが、湊の故郷の村で両性化という自身の体に訪れた変化に狼狽えます。

実は裕司は結婚資金のため、アルバイトと称して新薬のテストを自らの体で行っていたのですが、それこそが彼の体を種族と人間両方の子供を埋める両生体に変えていたのです。

数少ない種族の雌を巡る抗争と、世界を股にかけた陰謀に否が応でも巻き込まれていく2人。


1巻の初めの方はこんな感じです。

ストーリーもさる事ながら、本作に含まれる様々なテーマに胸を打たれます。

種族、差別、ジェンダー、共栄、マイノリティ。

主人公の裕司は男であり子供を産める女でもあります。
だからこそ両方の苦しみと辛さを味わうことになります。


初めはただの眼鏡の地味な男性って感じなのですが、どんどん色っぽく体付きも変わっていきます。(個人的にはけっこうツボ)

お相手の湊は、裕司より10歳も年下の17歳で初登場時は種族の雄として生きていますが、裕司との繋がりが深まるにつれて徐々に種族の考えではなく彼個人の考えで裕司を尊重するようになります。

2人が望むのは、ただ穏やかな生活なのに、周囲が2人を放っておいてくれません。
庇護を求める代償として、裕司に種族の雌としての役割を求めてくるんですよね。

何度も裏切られたり助け・助けられて困難に立ち向かい、立っているのがやっとな程に疲弊していく2人。
それでも人を愛し、社会の中で生きていこうともがく2人の姿に何度も涙しました。

本当に最近の作品ではお目に書かれないくらい辛い出来事が何度も2人を襲います。

裕司は望まない相手との間に子供を妊娠しますし、流産もします。
生まれてすぐ里子に出した子も可哀想な末路を迎えますし、肉体的にも精神的にもかなりギリギリまで追い詰められます。

個人的には7巻あたりで湊が他の雄と裕司を共有しようと、抱かれてこいと追い出したあたりは読むのが辛かったです。
湊も苦肉の策とは言え、一途に思い続ける裕司が精神的に追い詰められていく様が可哀想で…


だからこそ、最終巻のラストシーンはすごく印象に残りました。

女性男性両方の辛さを知り、目を背けたくなるくらい辛い目にあった裕司から出た、
「ねがいを持ってまた生まれたい」という言葉。

これだけ辛い目に合わされた世界をそれでも信じている裕司の台詞は胸を打ちました。

女性らしく男性らしくと言った性別の概念に囚われず、人として親としてただ愛する者のために闘い抜いた者の言葉。

2人の精神的な成長も素晴らしいです。
裕司は優しいけど気弱な男性、湊は純粋で残忍な種族の少年だったのが、2人ともお互いを思い合い、様々な困難を乗り越え、芯を持った強さを手に入れて別人のようになりました。

2人がどんな風に成長したのかはぜひ本編を見てみてください。

更にあとがきの三浦しをんさんの寄稿が素晴らしくて二重で感動です。

心が揺さぶられる作品なので、是非とも時間のある際にゆっくり読んで涙して、消化して欲しい作品です。

BLという枠だけに囚われない普遍的なテーマが描かれた作品です。